「Sympathy Kiss」多井中法ルート感想

当記事では「SympathyKiss」本編のネタバレを含みます。閲覧の際はご注意ください。

 

 

以下の文章はふせったーに載せた内容を加筆、修正したものです。

 

【多井中法】

オフィスラブ作品でいきなりドロップアウトした人から攻略したわけだけど、感触として悪くなかったと思う。

彼の境遇はなかなか複雑で、天運に振り回されて埋めようのない孤独を抱えて生きてきたのに追い打ちをかけるように人の悪意にさらされ続けた結果が今で、単純に寄生してるだけじゃないのがお話として受け入れやすくていいなと思いました。

 

まじめに生きていたらちゃんと評価してもらえるかっていうと必ずしもそうじゃなくて、やっぱりずるい人はどこにでもいて、そういう人が得をする事がある。これは現実にもあることで、あかりも自分の企画が盗用されるかたちで経験しました。 ただ、あかりには助けてくれる大人がいて、のりにはいなかった。その差がとにかく苦しい。

 

のりにとって料理は両親そのものみたいな存在ですが、他人はそんなこと知るよしもありません。知らないからこそ平気で踏みにじってしまうし、与えた痛みを忘れてしまう。でも傷つけられた人は今も血を流したまま。足を踏んだ人、踏まれた人…みたいなものです。ただ、悪意を持って踏みにじったことと、のりを知るために踏み込んだことは違います。あかりがのりにとって特別になれたのはそういう部分かな。

乙女向けのあなたを教えてほしいっていう開示の作業はかなり暴力的でもあるので、のりのルートは結構しんどかった……。オフィスを離れてヒモとヘラヘラ恋愛するぞ!と思っていたので(オフィスラブ作品です)存外ヘビーでしたね。

 

自分が優れていた分野でその要を失うこと、世間の信頼を損なうこと。どれをとっても恐ろしいことで、のりが誰かのぬくもりを求めて転々としても最悪の選択をすることがなくてよかったなと心から思います。

 

なんというか、ヤンデレ然としてるならまだしものりのようにケアが必要なタイプが誰にも傷を見せずに表面上では笑って生きてるのが見ていて苦しいんですよね。現実にはそういう人がたくさんいるから、のりの苦しみはファンタジーじゃない。こころの傷がひとつじゃなくて複雑に絡みあってるのも妙に生々しくて、いちばんシンパシー(?)を感じた部分でした。

彼がやたらハグをしたがるところや、くすぐったときに赤子のような反応をしたこと。過去を知ってからふとしたしぐさを思い返すと本当に胸が痛くて、現代ものならではの角度だったと思います。

 

こうやっていろんな要素を踏まえると、のりの人懐っこさは単なる性格じゃなくて誰かの庇護下にいるために身についた処世術でもあるんですよね。彼自身は素直で優しい気質なんだろうけど、序盤のルールを守らないところや自己保身のために嘘をつくようなところはとっても不実で、誰かに愛されたくてたまらないのに自分がいちばん愛を信じられないような、そんな印象を受けました。
→追記 : 「序盤のルールを守らないところ〜」の部分について
のりが約束を反故にしてベッドに潜り込んできたあのシーン、ちゃんと「嫌な夢を見ちゃって」と説明してましたね。初見の時点では微塵も信じてなかった。きっとあの晩のように一人でうなされていたはずなのに笑顔であかりの隣に来たんだと思うとますます切なくなる。

 

ちなみに私がいちばん知りたかった奇抜なピアスとタトゥーの経緯、「一緒にいて」と懇願したときにセックスまでした理由は一切明かされませんでした。

ファッションは単純にのりの趣味だとしても、問題はあのキスマークパジャマスチルのシーンですよ。他のパトロンとはプラトニックな関係だったならなおさらあの状況でセックスする理由なくないですか? のりを傷つけた負い目のある状態であかりに身を差し出すように要求するなんてほぼレイプだと思うので、このシーンは全く萌えませんでした。

断ったら相手に嫌われてしまうかも、という不安を前にしてあかりは断らなかったんじゃなくて断れなかったのだと、少なくとも私はそう思います。のりが自分の孤独を埋めるためにいろんな人とそうやって関係をもってきたのなら、かえって理解できるんだけど...…いまいち納得できない。

追記 : 序盤のベッドに潜り込んだシーンと、一緒にいてと懇願したシーンは「悪夢」でつながりがあったことを確認したので、少し見え方が変わりました。前者では手を出してこなかったのに、後者では必死にあかりを求めたのはのりなりに心を許した結果というか、要は甘えなのかな?と。
なんでセックスを要求したのかっていう部分は、そのときののりにとって自分を受け入れてくれてると感じることの最上級がセックスだった、という感じかなあ。何でもするとかなんとかの問答でも「抱かせて」とか言ってたから、あえて拒絶されるようなことを言って相手を試してる(あるいは遠ざけようとしてる)ような気もする。

 

【まとめ】

苛烈な運命に翻弄される恋物語も悪くないけど、こういう人の善意にふれて幸せに向かって自分で歩きだす、優しい話もいいなーと思いました。

個人的には大江さんと部長、マスターのちゃんとした大人たちが未熟な二人を支えてくれたのが本当にうれしかったです。乙女ゲームだからといって、目の前の困難をカップル間の神話的な愛で解決する必要はないと思っているので……。

人の悪意で傷つくこともあるけど、人の善意に救われることもある。きっかけはあかりでも、のりがいろんな人に助けられて前を向けるようになったのは素晴らしかったと思います。