「Sympathy Kiss」吉岡緑郎ルート感想

当記事では「SympathyKiss」本編のネタバレを含みます。閲覧の際はご注意ください。

 

 

【吉岡緑郎】

未来のプレジデント×完璧プリンスこと吉岡緑郎。発売前から期待していたキャラクターで、弟くんもなかなか気合が入っていた(?)ので特別期待していたわけですが、残念ながらシナリオはいまいちハマりませんでした。でもいちばん好きなキャラクターです。そういうこともある。

 

ドラマみたいな恋と言われて火曜10時や月曜9時、韓流やらを思い描いた奴が悪い、昼ドラだよと頬を張られた気分でいます。御曹司なんて韓ドラのテッパンじゃん。本当に悲しい。ラブコメが見たかった。普段は文句をいう運命の人じれじれでもこの際よかった。なんだよ悪役令嬢のいびり芸って。逆輸入するな!


吉岡の見え隠れする執着で全編構成してもらっても私は構わなかったんですけどね。頭のなかではゴルフクラブで撲殺する姿も見えてました。なんで弟に丸投げしちゃったんだ。

キャラクターとしては公式から事前に腹黒ではないと言われていたので、まあそういう転び方はしないにせよ運命枠なら絶対に何かしてくれるだろうと淡い期待を胸に進めていたところ、ちゃんと危うさと狂気をはらんだ御曹司だったのでかなりうれしかったです。ありがとう吉岡。上品な執着でかなり興奮しました。


以降は吉岡呼びだと若干ややこしいので緑郎表記で書きます。


緑郎は小さい頃から家業を継ぐ長子として周囲の期待に応えてきた人で、彼はどんな組織に属しても、まさに完ぺきな「王子」としてふるまってきました。そういう兄にコンプレックスを抱いてきた人の話がYOFYこと蒼くんルートで、そういうお兄ちゃんにも人間的な部分があって...というのが緑郎ルート。ノベルゲームの醍醐味ですね。

ただ、この「王子」の顔がナチュラルボーンではないのが緑郎ルートの鍵で、彼の人生によくも悪くも作用します。

 

幼少期の緑郎を見るに彼の本質は繊細で揺れやすく、周囲からの期待を重荷に感じてるのにそれを裏切ることもできない非常に真面目な性格をしています。私は大企業の跡取り息子になったことはないので彼の苦しみは想像するしかないんですが、掛け値なしで大事にされる弟(彼にもまた別の苦労がある)と違って自分は期待に応えられないと見限られてしまうのではないか、という不安はかなり根深いものなんだろうなと。

そういう状況で主人公と出会って、自分の弱さを受け入れてくれたこと、また再会する約束を交わしたことを心の支えにしてきた緑郎。なかなか萌えましたね。


あかりはこの幼年期の緑郎に対して弱さを受け入れただけではなく、厳しい世界を歩いていくための隠れみのともなる「王子」の役を与えてくれたわけですが、緑郎には緑郎なりの王子の理想像があって、序盤の「疲れたり、息抜きをしてる王子様は王子様とはいえないんじゃないですか?」という発言からも分かるように、かなりハードルの高い王子です。弱さや甘えの一切を捨てた完ぺきな存在。それこそが緑郎にとっての王子だと。雲行きが怪しくなってきました(嬉)


あかりと出会った当時の少年には、本当の自分を守るために必要な仮面だったとは思いますが、それを28歳まで続けてきた結果、恋をきっかけに軋轢が生じてしまう。それがこの昼ドラ...笑

たとえ緑郎のように美しく優しい王子様であっても、誰も傷つけず、誰にも嫌われずに生きていくことなんてできないんですよ。人とうまくやること、角を立てないこと、緑郎が誠実さだと信じてやってきたこと。そういうものが不実となって緑郎自身に返ってくる話だったと思うと、ベタすぎる昼ドラ展開も多少は許せる...かも...。

 

ところで緑郎のあかりに対する執着って好意云々以前に「僕だけの意志」を諦めたくないように感じませんでしたか?あかりを好きな気持ちに偽りはないんだけど周囲に、王子の顔に、緑郎自身が殺され続けた結果、心の支えだったものが暴発して手段と目的が入れ替わっているような印象を受けました。吉岡の狂気はこれからが本番。

「Sympathy Kiss」多井中法ルート感想

当記事では「SympathyKiss」本編のネタバレを含みます。閲覧の際はご注意ください。

 

 

以下の文章はふせったーに載せた内容を加筆、修正したものです。

 

【多井中法】

オフィスラブ作品でいきなりドロップアウトした人から攻略したわけだけど、感触として悪くなかったと思う。

彼の境遇はなかなか複雑で、天運に振り回されて埋めようのない孤独を抱えて生きてきたのに追い打ちをかけるように人の悪意にさらされ続けた結果が今で、単純に寄生してるだけじゃないのがお話として受け入れやすくていいなと思いました。

 

まじめに生きていたらちゃんと評価してもらえるかっていうと必ずしもそうじゃなくて、やっぱりずるい人はどこにでもいて、そういう人が得をする事がある。これは現実にもあることで、あかりも自分の企画が盗用されるかたちで経験しました。 ただ、あかりには助けてくれる大人がいて、のりにはいなかった。その差がとにかく苦しい。

 

のりにとって料理は両親そのものみたいな存在ですが、他人はそんなこと知るよしもありません。知らないからこそ平気で踏みにじってしまうし、与えた痛みを忘れてしまう。でも傷つけられた人は今も血を流したまま。足を踏んだ人、踏まれた人…みたいなものです。ただ、悪意を持って踏みにじったことと、のりを知るために踏み込んだことは違います。あかりがのりにとって特別になれたのはそういう部分かな。

乙女向けのあなたを教えてほしいっていう開示の作業はかなり暴力的でもあるので、のりのルートは結構しんどかった……。オフィスを離れてヒモとヘラヘラ恋愛するぞ!と思っていたので(オフィスラブ作品です)存外ヘビーでしたね。

 

自分が優れていた分野でその要を失うこと、世間の信頼を損なうこと。どれをとっても恐ろしいことで、のりが誰かのぬくもりを求めて転々としても最悪の選択をすることがなくてよかったなと心から思います。

 

なんというか、ヤンデレ然としてるならまだしものりのようにケアが必要なタイプが誰にも傷を見せずに表面上では笑って生きてるのが見ていて苦しいんですよね。現実にはそういう人がたくさんいるから、のりの苦しみはファンタジーじゃない。こころの傷がひとつじゃなくて複雑に絡みあってるのも妙に生々しくて、いちばんシンパシー(?)を感じた部分でした。

彼がやたらハグをしたがるところや、くすぐったときに赤子のような反応をしたこと。過去を知ってからふとしたしぐさを思い返すと本当に胸が痛くて、現代ものならではの角度だったと思います。

 

こうやっていろんな要素を踏まえると、のりの人懐っこさは単なる性格じゃなくて誰かの庇護下にいるために身についた処世術でもあるんですよね。彼自身は素直で優しい気質なんだろうけど、序盤のルールを守らないところや自己保身のために嘘をつくようなところはとっても不実で、誰かに愛されたくてたまらないのに自分がいちばん愛を信じられないような、そんな印象を受けました。
→追記 : 「序盤のルールを守らないところ〜」の部分について
のりが約束を反故にしてベッドに潜り込んできたあのシーン、ちゃんと「嫌な夢を見ちゃって」と説明してましたね。初見の時点では微塵も信じてなかった。きっとあの晩のように一人でうなされていたはずなのに笑顔であかりの隣に来たんだと思うとますます切なくなる。

 

ちなみに私がいちばん知りたかった奇抜なピアスとタトゥーの経緯、「一緒にいて」と懇願したときにセックスまでした理由は一切明かされませんでした。

ファッションは単純にのりの趣味だとしても、問題はあのキスマークパジャマスチルのシーンですよ。他のパトロンとはプラトニックな関係だったならなおさらあの状況でセックスする理由なくないですか? のりを傷つけた負い目のある状態であかりに身を差し出すように要求するなんてほぼレイプだと思うので、このシーンは全く萌えませんでした。

断ったら相手に嫌われてしまうかも、という不安を前にしてあかりは断らなかったんじゃなくて断れなかったのだと、少なくとも私はそう思います。のりが自分の孤独を埋めるためにいろんな人とそうやって関係をもってきたのなら、かえって理解できるんだけど...…いまいち納得できない。

追記 : 序盤のベッドに潜り込んだシーンと、一緒にいてと懇願したシーンは「悪夢」でつながりがあったことを確認したので、少し見え方が変わりました。前者では手を出してこなかったのに、後者では必死にあかりを求めたのはのりなりに心を許した結果というか、要は甘えなのかな?と。
なんでセックスを要求したのかっていう部分は、そのときののりにとって自分を受け入れてくれてると感じることの最上級がセックスだった、という感じかなあ。何でもするとかなんとかの問答でも「抱かせて」とか言ってたから、あえて拒絶されるようなことを言って相手を試してる(あるいは遠ざけようとしてる)ような気もする。

 

【まとめ】

苛烈な運命に翻弄される恋物語も悪くないけど、こういう人の善意にふれて幸せに向かって自分で歩きだす、優しい話もいいなーと思いました。

個人的には大江さんと部長、マスターのちゃんとした大人たちが未熟な二人を支えてくれたのが本当にうれしかったです。乙女ゲームだからといって、目の前の困難をカップル間の神話的な愛で解決する必要はないと思っているので……。

人の悪意で傷つくこともあるけど、人の善意に救われることもある。きっかけはあかりでも、のりがいろんな人に助けられて前を向けるようになったのは素晴らしかったと思います。